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催物場で学んだこと

 

今回は、これまで殆ど誰にも話したことのない私のVMD実務の原点であろう経験のことを書きたいと思います。

 

私はかつていた会社で若手の頃、新宿店の装飾担当を7年担当していました。今と比べると当時はとても自由な(ゆるい?)時代で、こと装飾の細かなプランについては若手の私にもかなりの裁量を与えてもらえて、楽しく、アイデアをバンバン出しながら仕事ができていた時代です。否、後からそれは私の上司が進んでそうしてくれていたことが判ったんですが、上司はウィンドウやメインVPなどの重要な案件やプランはキッチリお偉方への答申や確認をやっておられました。こういうメリハリってありがたいですよね。

 

上司だけでなく、誰もが「下積み」「仕事を覚える場」として認識し、若手が必ず最初に担当するのが「催物場(催事場)」の装飾でした。装飾もあるしリース什器の発注や、場合によっては造作施工もあります。ただラックや投げ込み台をならべるだけのセールもあれば、造作と装飾をふんだんに行う外国展も、美術展も、古本市もギフトセンターもあります。自店で行うものもあれば、ホテルやレストランや船で行う催事もあります。

外国展のような大掛かりなものは、よく先輩にとられました(笑)たくさん予算もつくし、全館連動するので売場装飾もできて楽しいですからね。ホテル催事も3時間くらいしか寝れませんが、バックヤードを自由に行き来したり、それこそ会社のお金で泊まれるので楽しかった(笑)

オークラ、オータニ、ヒルトン、そして今はなき赤プリ・・そういう楽しさもありましたが、私はとにかくすべての催事場のプランニングが楽しくて、夢中でした。もちろん私だけが考えるのではありません。売場図面を作るデザイナー、装飾デザイナー、什器屋さん、マネキン屋さん、売場の催事担当者、催事部の計画担当者。みんなで寄ってたかってストアプランをしますが、その過程が楽しいのです。だって、床壁柱天井しかない空間が、毎週毎週違う姿・商品・内容・テーマの売場に変わるんですから。ここで実務を通じて勉強したことは私のVMDのすべての基礎になっているんです。私は什器やマネキンを発注するだけでなく、看板や商品サインやPOPの計画、見せ場の計画、展開機能としてのリース什器の深堀りと使い方を考えて提案する役割を自ら課していました。

 

今は、リース什器を扱う事業者はたいへん多く、借りれる什器のテイストや形態、展開機能のバリエーションは選べないくらい多岐に渡り、サービス機能も様々借りることができます。素晴らしい時代になりました。ところが昔は山元しかなかったんですよ・・・

他にもありましたが、「バレンタインは〇〇」「光るオープン台は〇〇」「トロピカルな雑貨什器は〇〇」「水着は〇〇」みたいなピンポイントの選び方でした。

 

私は子供の頃からプラモデルを趣味にしていまして、そのまま作ることもあれば、AのプラモにBの部品を用いて改造しCを作ったりもしました。什器も「A什器の背パネルにB什器の機能を付けてCの什器にする」ようなことができたりします。こういうのをその催事の一番のポイント商品のところで提案してみたり、新たな什器の使い方を展開機能の面から探るのが楽しかったんですね。これは今にして考えると商品特性に合わせ(リース什器の)展開機能をプランすることであり、VMDプランの基礎であると思えます。当時一番重宝したのは「メッシュの背パネル」だったと記憶しています。たしか吉忠マネキンさんの商品でした。

 

催事の商品内容により使用する什器の形態やセレクトが変わりますし、配置構成が変わります。ガラスケースやオープン台をサークル状に組んで島を作る場合、内側の機能配置やサークルの出入り口をどう配置するかが重要になります。リースの棚什器を内向きのL字に組むと角に隙間が空いてしまいます。テーブルを多段に組むとH600は低いことが判ります。どんな形態の什器でもストックをいかに包含するかが重要です。フィッティングルームの組み方やバックヤードの作業場の組み方はとても重要です。600角のVP台より900角の方が断然見せ場に見えます。ハンガーボディはカッコ悪いです。などなど、什器の配置計画や什器組みの「あるある」は、ほとんど催事場で学びました。これが後の売場計画とVMD計画実務でどれほど役にたったことか・・・催事の平面プランを見ると立ち上がった売場が頭の中に浮かぶ。これは催物場で培った能力です。

 

什器計画と共に重要なのは商品表示や案内表示です。オープニングサービス。日替わりサービス。特別提供品。アイテム表示。ブランド表示。すべて判別できるように計画し、どこから見てもキチンと目にとまるよう吊り位置を計画します。お勘定場案内表示。試着室案内表示。大抵催事場内の奥に設置されるこれらサービス機能を、どこからでも目に留まり合理的に案内できるよう吊り位置を計画します。私はこの作業を「看板学」と勝手に呼んで、誇りと拘りを持って仕事をしていました。

 

売場(催物場)の中で、目に留めるべき箇所や必要な情報を、売場(催物場)の眺めを理解して適切に配置する。たくさん付けるべきものではない。いかに少ない数で合理的に計画するか。私の勤めていたお店はそういう考えのある店でしたが、吊看板一つとってもその配置と守備範囲を念頭に置くというのは、売場のVMDの基礎でもあります。

 

売場(催物場)の眺めの中で、最も目線の当たるところが実は柱であったり、壁面であったりします。什器が柱や壁に巻かれる場合はさておき、物産展などでは什器がサークルに組まれたり低い物販台が置かれて柱や壁が丸見えになります。そこで、環境意匠を兼ねてビジュアルボードを貼ったり、のれんやバナーを吊ってデザインを連動させて催事テーマや雰囲気を存分に醸成します。これをダイナミックに行うことで、催事場という空き地は年に数回、シズル感にあふれる祭会場に変身します。このような環境的装飾演出の重要性。その場でお客様をテーマとシズル感の中に没入させ非日常感を創り出す、リアル店舗ならではの取組み。

 

昔の話ですが、私が催事場のビジュアルボードのイラストを描いたら採用されて、思い切り使ってもらう機会がありました。担当者全員で楽しく創り上げる催事場。今の目でみると随分ベタで恥ずかしいですが、今でも私の原点であり、空間の使い方、眺め、イメージと雰囲気の醸成という場の見方を身体に刷り込んだ貴重な経験でした。

 

催事場でVMDの基本・イロハを学んだという話です。
北海道物産展や横浜中華街展で装飾イラストを描きました。
催事場のプランで学んだことはVMDのイロハでした。
当時はインクジェットの大型印刷がまだ出来なかったのでイラストから版をおこし、インクでプロセス印刷。

 

催物場にはVMDのすべての原点があり見つけることができる。

マーチャンダイジングも空間(環境)も演出も。

ありとあらゆる商品と物販とイベントがあるから、ありとあらゆる展開と展開機能がある。サービス機能のノウハウのすべてがそこにある。

催物場発VMDに着目してみてはいかがでしょうか。