10月24日に日本橋三越が第1期リモデルグランドオープンを迎えました(執筆時点で新館1Fと本館3Fにクローズ区画あり、19年度に第2期がオープン予定)。高島屋に続いて日本橋地区の商業施設が話題になっています。三越本店はどのように変わったのでしょうか。本館1Fを中心にVMDの視点で(少々贔屓目に)ポイントをご紹介しましょう。7月に出されたプレスリリースはこちらへ。
当時の手帳や資料は全部棄ててきましたので、いつから計画が始まったかの記憶は定かではありませんが、紆余曲折様々あり随分と長くかかったリモデル計画。それでも、2016年5月24日にリリースされた広報では18年春グランドオープンとなっていましたので、半年遅れで済んだのか・・ いえいえ、当初計画はもっと範囲が広かったのです。「白く輝く森」をコンセプトに隈研吾先生が創り上げた新しいグランドフロアの環境。当初の基本計画「カルチャーリゾート百貨店」の意を捉えて、かつて人の集まりは樹の下から始まり集い賑わいが街になったということからモチーフを「樹」に求め、そして五街道の始まりの地である日本橋という街の意を捉え、文化交流の様を店内回遊導線の「道」に求め、顧客とじっくり向き合う座売りの復元と、ウィークポイントである死角の多いゾーニングを正して効率的で楽しい回遊促進を促す導線計画への生まれ変わりを目指しました。カルチャーは、人が出会い交流することで発生する。「カルチャーに浸って楽しむ百貨店」という基本計画を、隈先生の環境デザイン「樹冠」「道」と「接客スタイル」「カルチャーMD」などに反映させ、新館を含む全館に波及させる計画でした。その内容は先に触れた2016年発のプレスリリースで今でも読むことができます。こちらです。
新たな社長新たな体制のもと対象顧客の再設定を行い、接客スタイルは本店の元々の強みである富裕層に向けた圧倒的なコンシェルジュサービスによるおもてなし強化を基軸に修正されましたが、座売りの根本精神は何ら変わらず進化した形です。今回のリモデルオープンでは1Fのみとなりましたが、樹冠も実現しました。MD計画は抜本的に変更されました。
では、本館の1Fを中心に見ていきましょう。超コンサバだった店内環境が生まれ変わりました。
白大理石が柱に巻かれ、柱上部から天井に向けて光をたたえた「樹冠」が放射状に伸びる。特に玄関周りはパブリックスペースとして広めに空間が取られているためその様子が美しく、フロアの奥に向けて眺めるとまっすぐ伸びた導線に対し連続したアーチに見えます。
婦人雑貨コーナー。ここも含め、1Fは環境デザインと実展開の攻防があります。樹冠に影響が及ばない高さでしか什器機能設置と商品展開をしていません。目線を遮る壁面も徹底して排除されているため、売場の眺めは圧倒的に抜けています。白いベース環境ですから、商品1点1点がよく見えるのも特徴です。
什器デザインは環境デザインと連動し白い台。商品陳列も三越のフラッグシップに相応しい、上質で整然かつ間のとれた展開です。間延びしないよう、立体的に盛り上げる陳列と整然とした陳列を要所要所で混ぜています。
商品展開高は低めですが、VP・PPを意図的に高めに設定し、明解な見せ場を括り出すことで空間的にMDが沈殿して見えないよう工夫されています。PPポジションも計算されています。このあたりが環境デザイナーとVMD担当者の調整のたまもの。ボディのコーディネイトも、帽子、スカーフ、ウェア、シューズと完璧。維持継続が大変ですが頑張って頂きたいところ。
化粧品コーナーは高めの位置にはブランドサインとコルトンを入れることで買い回り上の視認性を高めています。今回のリモデルで化粧品ゾーンは室町口玄関前に移設されましたので、かなりMDゾーニングの印象が変わっています。化粧品と装身具の統一環境設計、什器高の規制制御も三越伊勢丹らしい特徴です。化粧品に関わらず、雑貨ゾーンもブランドコーナー編集としての売場作りをしている以上、この環境の傘に収めるべく相当な工夫と努力と調整をしています。その対比が外周を囲むメゾンブランド店舗との差を明快にして、この場所ではブランドを気にせず自分で歩いて見ていくのね♪という散策の楽しみにつながり、そうしやすい通路区画行政になっています。統一環境の解釈の一つですね。
写真の什器は帽子・ハンドバッグのものですが、サークルを形成する特殊形態で、キツめですが内部に接客スペースを包含しています。大変構築的なアイランドですが、表裏のない、見通しの良い棚什器になっていますので必見です。その他にも、婦人雑貨の低い什器でのフェイス制御や展開機能の工夫に目を見張ります。
天女像前のコンシェルジュレセプションカウンター。今回のリモデルのもう一つの象徴。ここを起点に、顧客の要望に合う各カテゴリーの専門コンシェルジュに繋げていきます。オープン日なのでみな恐る恐る遠巻きに見ています(笑)この広場では長らく物販が行われてきましたが、本来あるべき中心の場の姿として、この象徴的な非日常空間のもと顧客にくつろいでいただきたい!ということである意味体験価値のある場に生まれ変わったというわけですね。各階にはエスカレータ前にパーソナルショッピングデスクが設置されて各階のサービス起点となっています。
ぜひ、三井住友銀行側の三井口玄関から吹き抜けに向かって眺めていただくことをおススメします。見逃されがちな視点ですが、導線計画や什器配置・形態、樹冠、レセプションカウンター、天女の構成配置の、建築設計と融合した美観が判って頂けると思います。同様に、車寄せ側南口玄関からサービスカウンターへの眺め、その逆も見てください。
この1Fの白い環境。樹冠のさま。これらは今後、環境装飾の恰好のキャンバスになるでしょう。リアル店舗ならではの非日常感あふれる環境装飾にも期待が高まります。
1Fの解説と写真はこのくらいにしておきましょう。実際に足を運ばれて、上層階ともどもその場で空間を体験して頂き、新旧空間の差を感じて頂きたいと思います。本館1F以外にも、VMDも充実した3Fのパーソナルショッピングデスクなど新規の見所がありますので、全館廻ってみてください。
前職で身に染みて感じたことがあります。
「全部完成するその瞬間まで、良し悪しの判定をしてはいけない。」
百貨店のような規模の大きな店舗は、既存店を大規模に改装する場合、少しづつ仮囲いで工事しながら徐々に新しい売場環境を拡張していき、最終的に正規の品揃えと什器を入れて正式オープンとすることが多いです。この1Fも同様の工程で工事が進みました。最初に樹冠が玄関周りの天井にお目見えした半年前、装身具ゾーンがオープンしたとき、新旧環境の対比ばかりが感じられて、これはダメなんじゃないか!?と思ってしまいました。
商品、販売員、サービスの体制が正規に整い、照明がバッチリ入り完成するまでは、あーだこーだ言ってはいけません。オープン前夜まではわかりません。開店1分前にパッキンとゴミが片付き、販売員が持ち場に着き、そして顧客が入店されたとき、ついにその全貌が現れます。
「心配は杞憂だった・・すごいな・・」
おそらく関係者の皆さんはこう感じたのではないでしょうか。お客様も楽しんでおられるのはないでしょうか。
新しい環境に包まれたグランドフロアとしては。
完成し、オープンしたその瞬間、どう見えるか感じられるか。この瞬間を感じるためにも開店直後に視察したいものです。
そして樹冠とその環境づくりは1Fで終わるか上にも続くか・・・
少なくとも、吹き抜けと天女のいるグランドフロアとしての1Fは、新たなコンセプトと全体の統一感をもってまったく新しいものに生まれ変わりました。それも想像の上を行く次元で。まさか重要文化財のコンサバな建築物の内装を、売場とはいえここまで大胆に変えるとは顧客の誰が想像できたでしょう。私たちも(笑)
2Fから上のフロアは全体観として変わっていませんが、1Fの中途半端でない変更と作り込みのお陰で不思議と違和感がありません。各階吹きぬけ周りにあった壁がこの数年に渡る改装でかなり撤去され、吹き抜けを介して全フロアが繋がったこともその一因です。
違和感がそれほどないのは他にも理由があります。上のフロアも1Fとの違和感をなくすため、展開の精度を底上げしているのです。2F紳士雑貨や3F婦人靴、4F呉服など、これまで段階的に平場のリモデルをしてレベルを合わせてきた効果もありますが、商品展開(陳列精度)のレベルが全館で高レベルに一致をしてきました。特に5Fリビングフロアは、サロンも作ったこともあるでしょうが、フロア全体が明らかに見違える展開となったのは特筆すべき点です。全ての箇所、定数定量化が図られてIPもPPもすべてに手が入っています。何年も変えられることなく階段脇の壁に掛けられていた馬のタペストリー(商品)もようやくなくなりました(笑)
床柱壁天井の環境、商品展開、見せ場。それぞれがバランスを取り合いながら、環境デザインこそ1Fとはまったく違いますが商品展開の「さま」は館として統合されつつあります。おそらく、今後第2期までの間に展開精度はもっと上がっていくでしょう。
隈研吾先生が傘コンセプトを作り、環境をデザインした・・この大いなる事実。今回出来上がった1Fの環境が、なぜだか腑に落ちてしまうのは結果的に隈先生の作品だからだ・・という側面もあるでしょう。ギラギラして高齢者にウケないのでは!?日本橋らしくないのでは!?売場ではなく建築作品なのでは!?・・・色々な声も、隈先生だから、日本橋三越をここまで変えても「隈研吾先生がやるとこんな素敵なことになるのね~」という感嘆詞、見え方、楽しんでいただける理由に変わるのかもしれません。オリンピックイヤーには、新国立競技場の帰りにこの店を見に訪れる観光客も多いかもしれません。
商品計画の中身と売場構成は変異していっても、軸はぶらさない隈先生の設計事務所としての姿勢と、配下のデサイナー一人一人に引き継がれている先生の思想とイズム。一方で、売上予算を抱え、売場の思いを持ち、出店交渉をする現場や商品部の譲れない拘りと条件。店が考えるサービスのあり方。環境か商品量かブランドパワーかサービスか。VMDはどうあるべきか。会社の方針は。これら、相反する立場と役割を喧々諤々苦難の末に融合したのが日本橋三越のリモデルです。ハイブリッドです。
苦難が伴ったとはいえ、出来上がったものは・・空間の広がり、包まれ感、MDと環境の見えがかり、什器設計、展開手法、陳列制御、ツールデザイン… 意志と意図により統合された素晴らしい売場と言えます。私にはそう見えました。そして、よくぞ全館の陳列精度アップに着手していただきました。感激しましたよ。皆さん、お疲れさまでした!
日本橋三越のサービスを軸とする圧倒的な差別化戦略は、社長が変わっても、店長が変わっても、売上利益効率が思うようにいかなくても継続されていくでしょうか。今回の売場・サービスフォーマットはどれくらい継続されるでしょうか。デジタルの仕組みが進化したら環境はどうなるでしょうか。そして、皆さん「あとは売上・・」と仰います。売上予算いかなければ売上が上がるように「改善」する。この繰り返しで正体を失い悪い方に変質していくのが世の常。売上が上がりますように。顧客の声を取り入れて進化する方向に進みますように。そして、いまは場違いな巨大ツールにしかみえないカウンターも、いずれ馴染んで違和感なく見えるようになりますが、そこから先いかに場を高い意志で維持していけるか・・今後を見守っていく必要がありそうです。このリモデルの評価は、第2期完成後3~5年後に下されるべきではないでしょうか。
紆余曲折あり、店舗のwillと品揃え思想は変化しましたが、展開に独自性と魂を込めるためにもこれから先、「カルチャーMD・カルチャー発信」を復活させてもよいのではなどと思います。日本橋は文化の街ですからね!
それにしても、ライオン口の左側ショーウィンドウが自主運営ではなくなったのが惜しまれます。。